椅子
単に「椅子」といっても、ほんとうにいろいろな椅子があります。椅子の素材も、同様にいろいろあります。椅子に使われる素材について、ご説明いたします。
木材
椅子材で圧倒的に多いのはナラとブナ。高級なものではローズウッドなどもありますが、一般的に色が濃い材は重いので、扱いやすさを確かめることも必要です。
つくりは、脚と座枠(台輪)、座面、強度を補う貫、笠木、背、そしてアーム(肘掛け、肘木)が基本。最近は貫のないものもよく見られますが、その分、座枠や台輪、座裏などで補強したり、笠木とアームを一体化させて強度を得るなど、構造で工夫がなされています。
製作工程は、製材した木材に木取りを行い、パーツを切り出した後、機械による面取りや磨き、ダボ穴などの加工が施されます。接合はほとんどの場合、ほぞ組みがダボ接ぎで行われ、組み立て、接着の後、普及品の多くはクリアラッカー塗装またはポリウレタン樹脂塗装が施されます。
成形合板
成形合板とは、薄くスライスした単板(ベニア)に接着剤を塗布して重ね合わせ、成形治具(せいけいじぐ)に入れて曲面加工を施した曲面合板のこと。圧着して接着剤を硬化する方法には、電子レンジと同じ原理で木材の水分を中から発熱させるマイクロウェーブ加熱や高周波加熱、治具にはさみ込んだ鉄板に電力を流して加熱する低電圧加熱、そして常温によるものがあります。椅子のフレームなどの小さい部材にはマイクロウェーブ、厚みのある部材には波長の長い高周波、面積の大きいものには低電圧が使われます。
曲げ木よりも古くからある成形合板の技術は、第二次世界大戦中に戦闘機の座席やグライダー製造のために大きく発達しました。チャールズ・イームズが負傷兵のギプスを成形合板でつくり、その後の作品に生かしたことは有名です。
曲げ木
日本では大正時代初期までブナ材は雑木として木工に使われていませんでしたが、ヨーロッパ家具の情報を元にブナを使った曲げ木の開発が進められました。曲げ木とは、水分を与えて熱を加えると可塑性が大きくなる木材の性質を利用して曲線状に加工した材、またはその技法をいいます。ブナやナラなどの硬く粘りのある材が最適で、無垢材を蒸し煮したあと治具を使い、棒材は手作業で金型に合わせてクランプで固定していきます。無垢の板材は機械で加圧成形し、高周波を使って乾燥させ、材質を安定させます。
籐(ラタン)
籐(ラタン)は、インドネシアやフィリピンなどの熱帯、亜熱帯に分布するヤシ科の植物。300種類以上ある樹種の中で、家具用材に使われるのは10種類ほどです。
骨組として使われる直径の太いものを民籐と呼び、太さによって大太民、太民、中民、幼民と分けられています。民籐の接合は、木ねじや釘打ち留めした後、丸籐の表皮を挽いてつくったヒモ状の皮籐によって、補強と装飾を兼ねて巻きが行われたり、座や背が編み込まれます。
加熱曲げ加工には直火曲げ、蒸気曲げ、加熱した砂に差し込む砂曲げがあり、工程は曲げ木加工とほぼ同じ。民籐で骨組みをつくるもの以外では、丸籐の芯(芯籐)を立体的に編み込んで本体とする場合もあります。
塗装は、編み上げ後にウレタン樹脂やラッカーで吹き付け塗装を施す普及品と、染料で先染めする高級品があります。
金属
金属の椅子というとミースやブロイヤーなど、半世紀以上も前の巨匠の作品が例に出されることが多いようですが、それは金属ならではの性質やフォルムを前面に押し出したデザインのせいかもしれません。
現在、家具に使う金属の多くは、アルミ、ステンレス、スチールの3種です。中でもスチールが最も多く使用されていますが、最近では、コネクター(ジョイントパーツ)を鋳造(ダイキャスト)したアルミでつくっているものが目立ちます。ウィルクハーン社の「ピクト」のように、アルミのリサイクル性に着目した商品もあります。カンチレバーの椅子などには、スチールよりも弾力性に富むステンレスが多く使われます。
プラスチック
プラスチックには熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2種類があります。熱硬化樹脂は熱を加えると固まる性質を持ち、ポリエステルではFRP(強化プラスチック)、ポリウレタンでは発砲ウレタンや塗料、そして食器や化粧板に使われるメラミンなどがあります。逆に、熱可塑性樹脂は冷やすと固まる性質を持ちます。射出成形されるポリプロピレンの椅子はその例です。
最近では、環境保護の観点から、燃焼時に有毒ガスが発生する発砲ウレタンや、ガラス繊維を含むためにリサイクルができないFRPなどが問題視されるようになってきています。昨年、ドイツのヴィトラ社は、イームズやパントンの名作プラスチック椅子を無害なポリプロピレンで復刻して、話題となりました。